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校長・教員ブログ

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 年に一度の人間ドックの日はとても憂鬱です。間違って水分を取ってしまわないか、バリウムを失敗せずに飲めるかという緊張感と、何より命に関わるテストに臨む気分で「あ~またこの日が来てしまった…」という思いからなんとか自分を奮い立たせて病院に向かいます。そんな人間ドックの唯一の楽しみは待合室に備えられている雑誌を読むこと。自分のお金ではもったいなくて買えない高価な雑誌をゆっくり眺める、少しだけ優雅な気分です。

 その時に読んだエピソードの一つが今でも心に残っています。あるファッション誌のコラムで、タイトルは「もしも…なら…」。「もしも…なら…」って何だろう?If構文か? ファッション関係の仕事をしている筆者(女性)が中学時代の同級生(男性)と再会したときのエピソードでした。当時を振り返っての話が盛り上がる中で、今では広告業界で勤務している彼が、忘れられない恩師への感謝として次のように語ったというのです。

中学の国語の授業でのこと、「『もしも…なら…』で短文を作りなさい。」という課題に、「もしもし、ならけんの人ですか。」と答えたのに対して、先生は否定をしなかった。そのことが今の自分を作っている。

なるほど!言葉って面白い。たしかに「もしもし、ならけんの人ですか。」もアリだ。中学時代の彼の自由な想像力に水を差すことのなかった先生の存在が、言葉を通してトレンドを作り上げていく広告業界での彼の活躍につながるのでしょう。

私自身も中学時代の音楽の先生のことが思い返されます。当時の音楽のテストは交響曲を聞き込んで、その主題構成を理解する、なかなか手強いものでした。レコードを買って、何回も聞いて、おかげでクラシックの良さをほんの少し垣間見ることができたように思いますが・・・その先生はテストを返却する際、毎回「珍回答」を発表するのです。

問題、ベートーベンの交響曲第9番(   )付き、(   )に当てはまるのは?(おまけ)付き、(折り紙)付き、(いわく)付き・・・

解答が紹介される度に、クラス中が笑いに包まれ、テストが終わった開放感も手伝ってか、ほんわか温かい雰囲気になりました。正解することしか頭になかった私にとって、世界の見え方が変わった出来事です。

 国語教育に携わって三十年近い時間が流れました。柔らかな発想を持つ中学生や高校生と一緒に言葉の面白さを楽しめているか、想像力を摘み取っていないか、改めて考えさせられ、大切にしていきたいこととして思いを新たにしています。

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