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校長・教員ブログ

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 言葉はすごくて面白い。毎日、そんなことを実感しながら暮らしている。教科書に出てくる作品や、本を読む中で出会った言葉に対して思うこともあるし、うちに帰ってから息子たちと話をしている中で出てくる面白発言(言い間違い)に出会って思わずメモするときなんかにも。紹介したい言葉のすごさ、面白さは山ほどあるが、中でも私が強烈にそれを感じたことを今回はお話したい。

 大学3年生だったと思う。普段、何気なく使っていることわざの由来が、ふと気になった。それは「ミイラ取りがミイラになる」。辞書の意味からすれば「人を連れ戻しに行ったものが、先方にとどまって帰ってこられなくなる」というものである。ニュアンスはわかるし、使い方もわかるが、はて?ミイラって……エジプトのピラミッドの中にいる、あれでしょ? ミイラ取りって、じゃあ、ピラミッドに入る盗人? ん? ちょっと待て、ミイラって、死んだ王様とかに薬とか油とか塗って作るんだよね? 自動にミイラになるの? と、考えだすと、様々な疑問が噴出してくる。  当時はまだ、今のようなスマホで検索すればすぐに欲しい情報が手の中にやってくる時代ではなかったので、大学の図書館で調べまくってみることにした。すると……、私の想像していた世界とは全く違う、「ミイラ取り」の世界が紐解かれることになった。

 まず、ミイラには人工的なミイラ(エジプトのようなもの)と天然的なミイラ(即身仏のようなもの)があることを知った。ミイラ取りが求めたのはおそらく人工的なミイラだろう。何故かというと、エジプトのミイラは中世から18世紀ころ、ヨーロッパで鎮痛剤や強壮剤として珍重されていたらしいからだ。それが16世紀ころオランダ経由で日本にやってきた際ポルトガル語「ミルラ(mirra)」として伝わり、その薬の原料が乾燥した死体であることがわかって、薬の名称であった「ミイラ」が乾燥した死体のことを総称するようになったことなどを、芋づる式に知ることができた。  さらに調べていくと、英語でミイラは「mummy」だが、それはアラビア語の「ムミアイ」という語から派生したもので、漢字で書く際の「木乃伊」は没薬(クリスマス礼拝の際に同じみの「黄金・乳香・没薬」の没薬です)を意味するオランダ語「mummie」を漢訳したものだということも知った。

 今まで何気なく使っていた言葉の影に、実はものすごい世界が広がっていて、21世紀の情報化社会でもない時代に、世界のあちこちで一つの言葉が派生して、それぞれの土地に様々な背景を持って根付いていくことのすごさに、ミイラをきっかけに、大学の図書館のすみっこで、一人で感動したことを今でも強く覚えている。まさに、自分自身が「ミイラ取りがミイラにな」ったようであった。

 言葉はすごい。何千年も前から変わらず使われている言葉と、たった今生まれたばかりの言葉とが、たくさんの人と人をつなぐために日々使われている。自分の思いを伝えるためには言葉は必須のアイテムだ。絶対必要なら、うまく使いこなせた方が絶対いい。では、使いこなすためにはどうするか? ということを日々考えながら国語科の教員をしている。

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