―言葉も旅をする― 英語科教員 吉田 努
10月末、高校生がスタディツアーに出発します。
旅をすることは、日常から離れ、その土地の文化や言葉を学ぶ良い機会です。そして、人が旅をするように、文化や言葉も国や地域を越えて旅をすることがあります。
日本でも、海外の文化として知られてきたハロウィーンを楽しむ人が増えました。ハロウィーンといえば、カボチャをくり抜いて作るジャック・オー・ランタンを思い浮かべる人も多いでしょう。
さて、ここで問題です。
「カボチャ」は、どこの国の名前に由来するでしょうか。
ヒント:カボチャ、カボチャ、カボチャ……と、ゆっくり何度か声に出してみると分かるかもしれません。
正解は、カンボジアです。
カボチャは16世紀、カンボジアの産物としてポルトガル人によって日本にもたらされたとされています。「カンボジア」が変化して「カボチャ」となり、日本語の語彙として定着しました。
北海道の名産品である「じゃがいも」の名前にも、地名が関係しています。ジャワ島のジャガタラ(現在のジャカルタ)を経由して日本にもたらされ、「ジャガタライモ」と呼ばれたものが、やがて「じゃがいも」になったと言われています。ちなみに、「ジャガタラ」は、現在のジャカルタをオランダ語訛りで呼んだものだと言われています。
このように、世界との交流をきっかけとして、文化だけではなく言葉も新しい土地へ入り、そこで使われ続けることがあります。
もう一つ、北海道に暮らす私たちに身近な例を考えてみましょう。
「イクラ」は、もともと何語だったでしょうか。
ヒント:北海道に地理的に近い国の言葉です。
正解は、ロシア語です。
「イクラ」は、ロシア語の икра(ikra) に由来します。ロシア語ではサケやマスに限らず、「魚卵」を広く表す言葉です。つまり、私たちが日本語で使っている「イクラ」は、もともとの言葉よりも意味が限定されていることになります。明治時代以降に日本語に定着したと言われていますが、その伝来には諸説あります。
言葉は、私たちと同じように旅をして、ときにはその土地にすっかり住み着くことがあります。
たとえば、今ではすっかり日本語になった「サボる」も、フランス語の sabotage(サボタージュ) に由来する言葉です。
もちろん、英語にも他の言語からやってきた言葉がたくさんあります。
食用の豚肉を表す pork は、古フランス語の porc に由来し、さらにさかのぼるとラテン語の porcus に行き着きます。1066年のノルマン征服以降、イングランドの支配層ではフランス語が広く使われるようになり、その影響で多くのフランス語系の言葉が英語に入りました。
一方、動物そのものを表す pig はフランス語由来ではありません。古くから英語で使われてきた言葉ですが、その詳しい起源についてはわかっていない部分もあります。このように、同じ「豚」に関係する言葉でも、その歴史をたどってみると、異なる道を旅して現在の英語にたどり着いていることが分かります。
ある言葉がどこから来て、どのような経緯でその土地の言葉になったのか。
その歴史をたどってみると、人々の移動や交流、時には国と国との関係まで見えてきます。言葉の歴史を調べることは、世界の歴史をのぞいてみることにも少し似ています。
では、言葉の由来を知りたくなったら、どうしますか。
もちろん、AIに聞いてみることもできます。でも、そんなときこそ、ぜひ辞書を開いてみてください。国語辞典、語源辞典、英和辞典には、こうした疑問への手がかりがたくさん詰まっています。
読書の秋。
本を読むだけではなく、ときにはゆっくり辞書のページをめくりながら、言葉がしてきた旅をたどってみませんか。