「神は細部に宿る」 社会科、地歴・公民科 岩橋 一成
「神は細部に宿る」(Der liebe Gott steckt im Detail、God is in the details)
この言葉は、ドイツの建築家ミース・ファン・デル・ローエが好んで使い、実践したことで広く知られるようになったと言われています。
一般に、作品や仕事全体の価値や美しさは、目立たない細かい部分へのこだわりや手を抜かずに丁寧に仕上げることで決まる、という意味です。
その後、現在まで多くの人たちによって、さまざまな場面で使われています。
例えば、元サッカー日本代表監督の岡田武史さんは、「勝負の神様は細部に宿る」という強い信念のもとにワールドカップ南アフリカ大会を戦い、奇跡ともいわれたベスト16進出を果たしました。
勝敗、成功や失敗は、戦術やシステムだけでなく、日々の生活習慣、小さな準備や油断のない姿勢を徹底するといった細部へのこだわりによって決まる、と日本代表選手たちに説いていたそうです。
私は毎年、雨に煙(けむ)る夕暮れ時になると「神は細部に宿る」という言葉とともに学生時代のある鮮明な情景がよみがえってきます。
大学に入学して新しいことに挑戦しようと思い、ラグビー部に入りました。それまでの競技経験もないままの無謀ともいえる入部でした。
当時の部員数は160人。チームは1軍から10軍まであり、その日々の練習は高い精度と厳しさを求められました。特に1年生の時は練習のみならず、グラウンド整備やボールなどの用具の準備・片付けなどの係の仕事もあって、苦心する毎日を過ごしました。
秋になり公式戦のシーズンを迎えて、次第に部内にも独特の空気感が感じられるようになってきたある日のことです。
その日は朝から雨が降っていたこともあって、私が所属していたジュニアチームは雨に煙(けむ)る夕暮れの中での練習となりました。
練習も終わり、担当している道具の後片付けをしていると、ふと人の気配を感じました。誰だろうと振り返ってグラウンドを見渡すと、宵闇(よいやみ)の冷たい雨の中を、白い三角巾で右腕を吊(つ)ったまま黙々と走っている一人の部員を見つけました。
4年生の「K先輩」でした。
先輩は、度重なる右肩の脱臼に苦しみ、レギュラー争いからは大きく後退してしまい、誰もが厳しい状況だと感じていたと思います。
それでも先輩は、冷たい雨の中を一人で走り続けていました。
その後、レギュラーチームは快進撃を続けて、大学日本一の栄冠を手にしました。
シーズンが終了し、4年生の引退を前に私は思い切って雨の日のランニングについて「K先輩」に尋ねました。
すると先輩はこう答えてくれました。
「シーズンが終わるまでは絶対にあきらめない、ということだよ。最後まで何が起こるかは誰にも分からないからね。いざチャンスがきたとき、準備をしていなければ、そのチャンスをつかむことはできないと思うよ。自分の意志で入部したのだから、最後の最後までレギュラーを目指して挑戦するということが自分自身への答えだと思うし、最後まで挑戦することが、このチームに対する責任でもあるんじゃないかな。」
このときの「K先輩」の言葉は、今でも私の原動力となっています。
「神は細部に宿る」
私にとっての「細部」とは、誰も見ていない場所で続ける準備と最後まであきらめない姿勢です。
皆さんにとっての「細部」とは何でしょうか。