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校長・教員ブログ

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校庭のクリスマスツリーにあかり が灯り、さあ 12 月だ。

12月 といえば いろいろ な作品があるなあ・・・ 樋口一葉「 大 つごもり」、荒井由実「 12 月の雨」 ・・・ ん? 、マルシャーク「森は生きている」の 原題は「 12 月」 、 ・・・ そして 「マッチ売りの少女」 、 12 月のクリスマスの夜の悲しい物語 ・・・ 。

「“マッチ売りの少女”にしましょう!」

と、幼いころ妹と繰り返し読んだというM 女史 。

「 NPO ことばの ひろば 五億の鈴の音 」 の仲間たちと今年の朗読会で読む作品を選んでいた。 朗読を 通して 、表現活動の場や技術向上の機会を提供 し 、 子どもたちの心と言葉を育むことを目的として活動する NPOである 。

今年は『 大人も子どもも朗読会 』 と題して、 「 12 月 に 「 豊平館 」 を会場に 朗読会のステージに立ってみませんか !」 、と SNS で 呼びかけ 、 8 名の子供と 12 名の大人が名のりをあげ てくれた。 彼らに読んでもらう作品を選んでいたのだ ・・・ 12 月 、 冬、雪の豊平館にふさわしい作品とは・・ ・

選ばれたのは、

1.「雪女」小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)作

2.「注文の多い料理店」宮沢賢治作

3.・・・

M

女史 の ひと 声に、「そうね、いいね」と私も賛成、他のメンバーもうなずき、決定!

「それにしても、 なんて悲しい 、 救いのない・・ ひどい話 ・・」と思っていると、作品担当は私になっていた!読み手に名乗りを上げた3 名の小学生と 3 名の大人の 朗読者に作品解説をし、朗読の練習をするのだ。

「マッチ売りの少女」は、 デンマークが生んだ 偉大な 童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセン の名作 だ。「はだかの王様」「人魚姫」「すずの兵隊」「みにくいアヒルの子」「雪の女王」 ・・・アンデルセンの作品を読まずに大人になった人はいないのではないかと思うほど、子どもたちのそばにあった物語達。

彼の作品 に は、アンデルセン自身の波乱万丈 の 人生 が 投影 され、 初期の作品は救いのない結末が多く「死ぬことでしか生きる苦しみから解放されることのない貧しい人々、それに 無関心な冷たい 社会」 が描かれているという。生涯創作活動を続けたアンデルセンは、努力の甲斐あって晩年には社会に一目置かれる存在となり、物語も結末に希望の光が見えるも のに変わっていった。

しかし、「マッチ売りの少女」は比較的後期の作品なのだ。この結末にしたアンデルセンの意図はどこにあるのか。マッチ売りの少女って誰なんだろう・・・ 謎解き「マッチ売りの少女」 の 始ま り靴職人の父と、その父よりかなり年上の 母のもとに生まれたハンス・クリスチャン・アンデルセンは、貧しいながら愛情を受けて育つ。父親は物語を読み聞かせたり、人形劇のおもちゃを手作りしてくれたそうだ。 母は信心深く息子を宝物のように大切にした。 しかし 10 歳でその父親を戦争で失う。生きるために母は再婚し (そうするしか女性には生きるすべがない時代だった) 、ハンスは 15 歳で家を出て自立の道へ。

最初はオペラ歌手 になろうとしたというハンス、挫折と失敗の連続の中、なぜか人に恵まれ、大学に行かせてもら い 、ひとかどの教養を得て文筆活動を始めたようだ。

40歳になり、童話作家として 認められるようになった アンデルセンは、ある日一枚の版画を渡され 、 それに物語をつけてほしいと依頼 され る。手に 、 火が 灯る 一本のろうそくを持った少女の 挿絵 、 そこに 描いた 物語 ・・・とは?

アンデルセンの心に浮かんだのは・・・極貧の家に育ち、幼いころから物売りに出され、稼ぎがないと継父にぶたれながら、なんとか自分の命だけを守りぬいて生きていた少女・・・それはアンデルセンの母のことだった。幼いころ母親から聞いた昔語り、現実とは思えないほど辛く悲しい現実を物語に込めた・・・

「マッチ売りの少女」が世に出たのは1848 年、ヨーロッパは革命の嵐が吹き荒れ、デンマークでも三月革命が起きた。ヨーロッパ全土は3 年に渡る大飢饉で食べるものも行き渡らず、持てる者と持たざる者の格差は広がり、それをどうすることもできない時代の「生きる権利」を求める革命であったそうだ。まさに「死ぬことでしか生きる苦しみから解放されることのない貧しい人々、それに無関心な冷たい社会」を描き出した物語だったのだ。

あまりの悲しい結末に、ある国では後半を大きく変えてハッピーエンドにして出版されたものもあったそうだ。

でも、それはどうなのだろうと思う。アンデルセンが伝えたかった事、残したかったことを読み継ぐことの意味をちゃんと受け止め伝えたい。読んだ者の心に残る「なんてひどい・・・」、いつの世も、どの社会にもいる辛く悲しい境遇の子供たちのことを忘れない、少しでもできることを考える一人であってほしい・・・。

10月、時節柄、オンラインで「朗読会」の練習が始まった。

小学生の理解力、学習力、表現力に感動する! 無垢な心に響いた物語を素直に表現してくる。

「おばあちゃん!」と、少女は大声を上げました。「ねぇ、わたしをいっしょに連れてってくれるの?でも…… マッチがもえつきたら、おばあちゃんもどこかへ行っちゃうんでしょ。……

(青空文庫 大久保ゆう訳「マッチ売りの少女」より)

のくだりを、担当するYちゃんに読まれると、毎回、涙腺崩壊しそうになる・・・

アンデルセンの時代も、今も、かのウクライナにも、ロシアにも、そしてこの日本にも、世界中のどこにでも、自分の力ではどうしようもない弱い立場の人々が存在してしまう人間社会。とりわけ「女の子」がその苦しみを背負わされることが多いことを私たちは知っている。「そのことに気付いて、どうぞ忘れないでいてほしい」、と心に刻みつけるような悲しい物語で、アンデルセンは世に訴えたかったのかもしれない。

『大人も子どもも朗読会』は12月11日日曜日、豊平館のステージでその思いが時を超えて読み継がれる。

教室から外を見ると、クリスマスツリーの輝く木。

スミス先生が創ってくださったこの学校にクリスマスが近づいている。

130年の時を経て、私たちは暖かい教室で、友達がいて、勉強ができていることがどういうことなのか・・・、

Shine like stars in a dark world. クリスマスの夜に、思い出してみてほしい。

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