「方言、大事にしていますか?」 国語教師 伊藤健
少し古い話ですが、先の年末に妻と義母が話しているとき、義母が
「これ、私のと○○(妻の名前)のと『ばくって』あげるわ」
と言いましたが、すぐ後で「『ばくる』って随分使ってないわね」と言い、笑っていました。
さて、「ばくる」とはどんな意味でしょう? 今の生徒たちは知っているかな?
答えは「交換する」という意味で、北海道弁です。というわけで今回は方言の話題。
と言っても、アクセントやイントネーションの話です。最近、語彙としての方言は、本当に廃れてきていると感じています。先程の「バクる」もそうですし、「ゴミを投げる」「ジョッピンかる」「したっけ」なども耳にしなくなりました(それぞれの意味、わかりますか? 最後に答えを書いておきますね)。そうなると、「私は方言を使っていない」という感覚になると思います。
ただ、語彙としては使っていなくても、アクセントやイントネーションが標準語と異なることは、まだまだ残っているのです。具体的な例としては、青森のご当地アイドル、王林さんの話し方がわかりやすいでしょう。彼女は弘前出身とのことですので、津軽弁のネイティブスピーカーのはずです。もし彼女が、標準語話者を一切意識せず、他の津軽弁のネイティブスピーカーと話している場面に遭遇したら、おそらく、その内容を聞き取ることは困難だと思います。ですが、テレビで彼女が話している内容を聞き取れるのは、語彙を標準語にしようと、相当意識して話しているからです。ただし、アクセントやイントネーションは標準語と異なっていますよね。このように、語彙は意識的に変えることはできても、アクセントやイントネーションについては、方言を使わないようにすることは難しいのです(逆パターンですが、標準語話者が方言を使うと、何か違和感がありますよね)。
さて、ここで本題。標準語と北海道弁のアクセントの違いが如実に表れているのは「幼稚園」と「コーヒー」の2語です。多くの北海道人が東京に行って、何かの拍子に「幼稚園」や「コーヒー」と言うと怪訝な顔をされることが多いでしょう。どうしてかと言うと、その2語については
標準語アクセント:平板 ⇔ 北海道弁のアクセント:語頭が強い
という違いがあるからです。もう少しわかりやすく書くと、
という違いになります。これ、実は結構色々な人がSNSやブログで記事にしていますので、気になる人は、検索して実際に音で聞き比べてみてください。ちなみに、アクセントの位置が違う言葉はまだありますので、それも調べてみてくださいね。
今回、このような話題としたのは、北海道出身者に、東京へ行ったときなどに気をつけてね、ということを伝えたかったからではありません。むしろ、自分の言葉を大切にしてほしいという思いがあるからです。方言について、特に東日本や北日本の人たちはコンプレックスを抱き、標準語に直そうという気持ちになってしまう人が多いと思います。昔ほどではないと思いますが、気にする人はまだいるのではないでしょうか。でも、言葉には、その人が辿ってきた生き方が反映していると私は考えています。方言を気にしてしまい、言葉遣いやアクセント、イントネーションを直すことは、自分の人生の一部を否定することになってしまうのではないかと思っています。否定は言い過ぎだとしても、自分の人生の一部を隠すことになると思います。それって、とてももったいないし悲しいことですよね。
多様性が大切にされつつある現在、言葉に対する意識も昔とは変わってきたと感じています。先の王林さんのような、ご当地アイドルが方言を直さず活躍しているのも、その一端でしょう。このような動きがもっともっと広がっていけばいいな、と思っている今日この頃です。
〔北海道弁〕
「ゴミを投げる」→「ゴミを捨てる」
「ジョッピンかる」→「鍵をかける」
「したっけ」→「それでは」