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校長・教員ブログ

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子供のころ、私の実家は生き物にあふれていました。都心に近い住宅街で、狭い庭に小さな菜園を作り、ウサギ、モルモット、鶏、アヒル、犬、猫(勝手に住んでいた)、ネズミ(屋根裏に勝手に住み着いていた)などと一緒に暮らしていました。鬱蒼とした木々の間から鶏の鳴き声や犬の遠吠えが聞こえてくる我が家は、友人たちから住宅街のジャングルと言われていました。両親は東京の小学校の先生で、ちょっと変わった両親だったと思います。

夏休みに、父が勤務している小学校のアヒルを一時預かることになりました。都会の小学校の飼育小屋はコンクリート張りで土がなかったそうです。そのせいか、都会のアヒルはコンクリートの軒下から出ようとせず、土に触れるのを嫌がっているようでした。一方我が家のアヒルは野生的で、畑の土をひっくり返してミミズを漁り、自家製の池に潜って遊んでいました。都会のアヒルは泳げませんでした。今まで水場はコンクリートの小さなくぼみにたまった水しか見たことがなかったからです。池で泳がせようとしたら溺れかけました。都会のアヒルは偏食で、あまり餌を食べようとしません。普段学校では、パンとキャベツしか食べていなかったそうです。なんでもおいしそうに食べる野生化したアヒルたちを奇異な目で見ていました。

そんな都会のアヒルに転機が訪れます。少しずつパンとキャベツ以外も食べるようになったころ、アヒルたちにミミズを与えました。他のアヒルたちは狂ったようにミミズに襲い掛かります。都会のアヒルはそれを怯えたように見ています。そこで、他のアヒルを遠ざけ、都会のアヒルだけにミミズを与えてみました。他のアヒルたちがおいしそうに食べるのを見て興味をもったのでしょう。恐る恐るくちばしを伸ばしました。そして食べた瞬間、彼女の目の輝きが変わりました。庭で育った天然のミミズは、1匹のアヒルの世界観を変えるほどのインパクトがあったようです。よほどおいしかったらしく、もっと出せと私の後をついてきました。それから彼女は変わりました。他のアヒルと一緒に泥に頭を突っ込んでミミズを漁り、全身泥だらけになって遊ぶようになりました。忘れていた野生を取り戻したのだと思いました。

夏休みが終わり、彼女は都会の学校へ帰っていきました。その後、彼女がどうなったのかは知りません。住み慣れた我が家に戻りほっとしたのか、泥だらけの日々を恋しく思い出していたのか。今でも都会のアヒルを時々思い出し、今の自分はどちらだろうかと考えます。みなさんは野生のアヒルでしょうか、都会のアヒルでしょうか。

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